今さら『斉木楠雄のΨ難』感想

2017年10月に公開された映画。今さらながらの感想です。

ひたすらくだらなくってバカバカしい映画です…いやいや、決して けなしてるんじゃなくてですねw
何だろう、今迄こういう系統の映画やらドラマやら舞台やらをいくつか観て来たんですが、こんなにも重みのない、毒気のない、しかも無理矢理笑わせようとする痛々しさの感じられない作品は、少なくとも私が観た中にはほとんどなかったような気がする。(ずっと思い出そうとしてるんだけど記憶にない)
少年マンガ的 熱い友情とか根性とか努力とか汗・涙ともほぼ無縁。 まともに心に響くものは皆無。観る側に何かを深く考えさせるような隠れたメッセージとか、笑いの奥に潜む闇とか毒とかが まったくなくて、ただ今この一瞬を笑い倒すだけ。 だから、くだらなくってバカバカしい、ってのは、賛辞と思ってもらっていい。
そういう映画だから、観た後の(普通の映画のような)満足感とか充足感というのはほとんどなくて、すごくサラ~ッとしてる、それを物足りないと思う人もいるかもしれないけど、私は、これはこれで楽しみました。

タイトルロールの山﨑賢人さんの淡々とした揺るぎなさとか、橋本環奈さんの思い切った顔芸とか、賀来賢人さんの笑わせどころにたっぷり余裕のある感じとか、吉沢亮さんの何やっても無駄にカッコイイところとか(このキャラが一番好き)、新井浩文さん、笠原秀幸さんにしても、かなりメチャクチャなこの世界感にうまく乗っかって、体当たりで(でも いささかの恥じらいも感じさせながら)演じている、それが、観る側に、爆笑じゃなく、「は‥はは~」といった脱力感を含んだ背伸びしない笑いを生んでいる。この、全力なのに軽い笑い、というのが興味深かったし、最終的に、すべてのトンデモナイハチャメチャな出来事を、マジシャン(ムロツヨシさん)のマジックだったんじゃね? という落としどころに持って行ったところも(定番ではあるけど)面白かったです。

さて田辺誠一さん。楠雄の父親ですが、フワーンと浮いていておおらかで、映画全体の空気感を壊すことなく、内田由紀さんとの夫婦役もピッタリでした。
(この二人ってどこかで観たよなぁ‥と思ったら、『神の雫』の一青とマキだった!惚れ込んだドラマなのに忘れちゃいかん!w)
この映画絡みで福田雄一監督と賀来さんと田辺さんが『ボクらの時代』に出演してるのを観たのですが、福田監督が田辺さんを買ってくれていて、何度もオファーした(どんな役だったんだろ)のに断られて、今回やっと出てもらえた、と言っていたのが何だか嬉しかったです。


斉木楠雄のΨ難
公開:2017年10月11日
脚本・監督:福田雄一 原作:麻生周一
音楽:瀬川英史  主題歌:ゆず「恋、弾けました。」
製作:松橋真三 北島直明 製作総指揮:伊藤響
制作会社:プラスディー  製作会社:映画「斉木楠雄のΨ難」製作委員会
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント アスミック・エース
出演:山﨑賢人 橋本環奈 新井浩文 吉沢亮 笠原秀幸 賀来賢人
ムロツヨシ 佐藤二朗 内田有紀 田辺誠一  他
公式サイト

今さら『私のおじさん~WATAOJI~』感想

昨年(2019)1月、毎週金曜23:15からテレビ朝日金曜ナイトドラマ枠で放送された全8回の連続ドラマ。今さらながらの感想です。

岡田結実さんの初主演ドラマ。
深夜帯の放送でもあり、コメディ寄りの軽めのドラマなのかな、と思って観ていたのですが、まぁ確かに くだらない・バカバカしい(バラエティ制作チームの話なので)シーンはあるのだけれども、そこで働いている人たちは、悩んだり迷ったりしながら一所懸命汗かいて自分なりにちゃんとしっかり仕事をしている、これはバラエティ業界の舞台裏を描いたお仕事ドラマであり、ひかりを始めとしたメンバーの成長ドラマ。
コメディ定番の面白さが無理矢理な感じではなくて、自然に笑わせられ、そして泣かされ、いろんなことを考えさせられる、温かいドラマだな、と思いました。
妖精のおじさんが突然現れたり消えたりする、なんていうとんでもない設定なのに、ドラマとして伝えたいことが ほとんど引っ掛かりなくすんなりこちらに伝わる、それが可能だったのは、脚本が、コメディということにこだわり過ぎず無理して笑わせようとしないで、一人一人を、単純で薄っぺらではなく ある程度の深みを持った人間として描いていたからだし、演じていた人たちがまた、コメディ要素もシリアス要素も自分の役に自然に練り込んで演じていたから。 とにかく、芸達者が集まった感があって、本当に安心して観ていられました。

出渕チーフAD(小手伸也)やら九条AD(戸塚純貴)やら馬場AP(青木さやか)やら、全体的におちゃらけて楽しいチームの中で、一人まっすぐでブレない千葉D(城田優)の存在が大きかった。彼の塩辛さがちょうど良いスパイスになっていて、ドラマを締める効果があったように思います。

コワモテ遠藤憲一さんの妖精としての空気感も、正直最初はちょっと違和感がありましたが、ひかりがおじさんに慣れるのと同じくらいのペースでこちらも何だか慣れて来て、エンケンさん自身も中盤以降はすんなりとみんなの中に溶け込んで楽しんでいる(皆があれこれ推理してるシーンで一瞬刑事の顔になったりw)のが伝わって来て、観ていてとても楽しかったです。(いつも飲み屋で頼むのがカシスオレンジってのも可愛らしいw)

主人公・一ノ瀬ひかり役の岡田結実さんは、そんな手練れ(てだれ)のメンバーの中に入って奮闘、とにかく元気で、表情が豊かで、すごくコメディエンヌ向き、という気がしました。 岡田さんのようなキャラクターは、若い女優さんでは貴重かもしれない。千葉ちゃんと安易に甘々な関係にならない、という脚本・演出の選択も、私としては大正解だったように思いました。

さて、泉プロデューサーを演じた田辺誠一さん。 いかにもギョウカイ人です的な軽さ、テキトーな上司(「踊る大捜査線」みたいな上層部3人組)に振り回される一方で千葉たちから突き上げくらう中間管理職的な辛さ、ひかりをさりげなくかばう優しさ、芯に持つ仕事への熱い想い、等々が、無理なく泉のキャラに収まって、しかも、コメディとしての全体の空気を壊さない。
『捜査会議はリビングで!』の晶も ドラマ全体のコメディとしての空気感に凄く馴染んでいて、そういう田辺さんを観るのが楽しかったのですが、泉Pは、軽さの中にある重みや深みが少しずつ表面に浮き出る仕掛けになっていて、観続けて行くことで、人間的なさまざまな色付けが加わり、どんどん魅力的になって行くところが(まぁファンだから贔屓目が入ってるかもしれないけど。苦笑)とても良かったです。

内容としては、メンバーそれぞれがメインになる回があって、どの回も面白かったですが、田辺ファンの私としては、4回と6回、特に千葉(城田)とのシーンが見ごたえあって楽しみました。
千葉がなぜ泉に対してタメ口なのか、言いたい放題出来るのか、その裏にある二人の信頼関係に、何だか凄く惹かれてしまった。
それから、「泉さんは千葉さんの気持ちが分かってない」と言うひかりに、「ちゃんと泉さんに謝った?」というお局様・馬場の一言も効いてました。この一言で、泉Pが裏でひかりのためにどれほど動いていたかがすごく良く分かって、馬場ちゃんさすがアシスタントプロデューサー、泉Pのことちゃんと分かってるなぁ、とちょっと感動。青木さやかさんがこの場面だけでなく全体的に良い味出してましたね。

コワモテおじさんの妖精が、ただ ひかりにだけ見えてるんじゃなくて、辛い時苦しい時 誰の前にも現れる、しかも、乗り越えた時には見えなくなっている、という存在だったのも良かったです。(もしかしたら‥ひょっとしたら‥私にも来てくれていたのかもしれない、なんて考えたりしてw)
アメリカに行かないか、と誘われて千葉が迷っていた時、突然おじさんが見えるようになって、いちいちビビりまくってたのが(普段めったに表情変えない男だけに)面白かった。

おじさんの正体は何だったのか――― 一歩を踏み出せなくてウジウジしている人の背中を押してくれる「近くにいる誰かの見えない手」だったのかもしれないですね。泉Pがひかりの頭をポンポンしてくれたように、千葉がひかりに手を差し伸べてくれたように…
ひかりの「おじさんになりたい」という一言。これ すごくいい台詞だな~、と思いました。ひかりも おじさんやみんなにしてもらったように、いつか誰かの背中を押す存在になって行く…そうやって誰かに背中を押されて、みんなつまづいたり転んだりしながら前に進んで行く…そんな未来が垣間見えたほっこりしたラストが心地良かったです。


それにしても…
泉P、後半は、出張やら やらせ疑惑の責任取って突然会社辞めるやら(すぐに復職してたけどw)唐突にいなくなっちゃってたなぁ。刑事7人(シーズン4)の時みたいに、中の人が忙しかった(学校やら坂の途中やらに出かけてて?)のかもしれないし、内容的に泉がいない方が話の展開がしやすいと思われたのかもしれないけど、何だか寂しかった。
特に皆が週刊誌のゴシップやフェイクに悩まされる7回は、私としては泉Pに居て欲しかった、泉がどう乗り切るのか(あるいはまったく乗り切れないのかw)観てみたかったです。それがちょっと残念でした。



『私のおじさん~WATAOJI~』
放送:2019年1月11日 毎週金曜 23:15- 全8回 テレビ朝日
脚本:岸本鮎佳 モラル   監督:竹園元 Yuki Saito 小松隆志
音楽:木村秀彬  エンディング:aiko「愛した日」
製作総指揮:三輪祐見子テレビ朝日、GP)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日) 本郷達也(MMJ) 布施等(MMJ
制作:MMJ(協力)  製作:テレビ朝日
出演:岡田結実 遠藤憲一 城田優 小手伸也 戸塚純貴 青木さやか 田辺誠一 他
公式サイト

今さら『3年A組 -今から皆さんは、人質です-』感想

昨年(2019)1月、毎週日曜22:30から日本テレビ系で放送された全10回の連続ドラマ。今さらながらの感想です。

これはすごいドラマでした!
学校を爆破して生徒を閉じ込める、なんていう とんでもなくインチキくさい話なのに、幕開きからの緊迫感が半端なくて、一気に引き込まれました。

発端は一人の生徒の自殺。
半年前のその事件の全容を解明すべく、一人の先生が立ち上がった! というと、いかにもかっこいい正義のヒーローみたいですが、菅田将暉くん演じる柊一颯は、やることなすことがとんでもなく危うくて、ヒーローと言うには毒が強すぎてすんなり「好きだ」とは言い切れないんだけど、一方で、どこまでもストイックで、生徒に向ける甘さを削ぎ落した厳しく鋭い刃を、翻(ひるがえ)って自分自身にも向けているように見えるので、突き放して観ることが出来ないんですよね。 そのうえ、喧嘩に滅法強く、しかもアクションがすごくかっこいい!
‥そんな人間が本当にいたらすごいけど、やり過ぎてしまえば嘘っぽくも白々しくもなる。 深みのない薄っぺらな人間を主人公に据えてしまったら、もともととんでもない設定のこのドラマに、さらに虚構の色合いが強くなってしまって、本当に伝えたいことがストレートに伝わらなくなってしまう可能性もある。
果たして 観ているこちら側が素直に納得出来るだけの背景が柊一颯に用意されているのか、とちょっと猜疑の眼で観ていたら‥
実は、特撮ヒーローのスーツアクターをしていたが、病気になったために断念、教師だった恋人(制作会社の社長の娘)と同じ学校の先生になり、さらには、彼女を精神的な病にまで追い詰めた男を陥(おとしい)れるためにその男の居る学校に赴任、‥って、よくもまぁ考えたものだなぁ!と素直に脱帽。
これは、特撮ヒーローを演じ、学校の先生になりたかった、という菅田くんの実際の人生とも重なっていて、だからこそ、嘘の多い設定なのに、そこにリアルな空気を吹き込めたのかもしれない、という気がしました。
いやいや、菅田将暉、とんでもない俳優ですね。そして、彼の一途でひたむきで真剣な「本気」が乗り移ったかのような 柊一颯は、非常に魅力的なダークヒーローでした。

教室の緊張感も素晴らしかったです。
あれだけ突拍子もないことが次々に起こっているのに、そこにいる生徒たちが(柊先生に引きずられるように)リアルにピリピリした空気感を作っていたので、嘘っぽさが感じられなかった。
柊に 自分のやったことを暴かれる生徒たちが、それぞれ役の持ち味を自分に限りなく近づけて自分のものとして演じていたから、こんなのありえない、と思いつつも、彼らの言動の重さに引き込まれ、ついつい前のめりになって画面を凝視してしまう自分がいました。
毎回それぞれ中心になる生徒がいるのですが、そこに他の生徒たちも自然に絡んでくるので、全体として誰かが突出してメインになることがなく、スポットが生徒全体に当たっているようで、一人一人が単なるモブになってしまっていないところも興味深かったです。
「一人一人が目の前にある問題とどう向き合うべきか、想像力を働かせていろんな可能性をかんがみる。自分だったらどうするか、相手が自分だったらどうすべきかを考えて、それぞれの想いをぶつけ合う」
「想像力を働かせて自分の言葉や行動に責任を持つ。決断をする前に踏みとどまって、これが本当に正しいのかを問いただす。考えることの大切さをみんなに伝えたかった」――
そんな柊の言葉に導かれるように、生徒たちはやがてネットの情報を鵜呑みにしなくなり、惑わされなくなり、自分でしっかり考え、分析し、正解を導き出すようになる。10日の間に葛藤しつつ確実に成長していく、その姿がとても頼もしかったです。

一方、彼らの身を案じる外の人たちは、どこかフッと抜けたところがあり、校長(ベンガル)始め 先生たち(堀田茜・バッファロー吾郎A・神尾佑)の事件に対する緩さというか甘さというか緊迫感のなさ、というか、ユーモラスなところもあり、それが逆に、3Aの閉じ込められた空間のシリアスな空気を引き立てていたように思います。

そんな中、田辺誠一さん演じる武智先生は、時に、緊張した3Aの空気感をぶち壊しにしているようなところもあって、観ていて すごく浮いているようにも、馴染めていないようにも思えてハラハラしたのですが、それは、田辺さんの役つくりに問題があるのではなくて、あえてKY(空気読めない)な人間として3Aに深く(真剣に)入り込まず、柊とは真逆の立場で「自分にはまったく関係ない」感を醸すことで、逆に「先生とは何か」という問題提起をしているところもあったのではないか、という気がしました。

ただ、結果的に先生方もそれほど深く事件に関わらず、警察関係者の五十嵐(大友康平)や郡司(椎名桔平)も陰に柊に手を貸す形になって、「悪役」という立場の人間がほとんど武智先生一人になってしまった、というのは、観ていてちょっと辛いものがありました。
う~ん、辛いというよりも‥生徒を報酬目当てで大学に斡旋したあげく早々に見限ったり、フェイク動画作成を依頼して 柊の恋人・相楽文香(土村芳)を追い詰め心の病にしたあげく、3Aの生徒・景山澪奈(上白石萌歌)を死に追いやる原因を作った、いわばとんでもない悪党でありながら、本人にその自覚が欠落している、その「怖さ」が、もう一歩、こちらに親身なものとしてぶつからない、もどかしさ、と言ったらいいか。
でも、私はこのドラマを初回から最終回までほとんど一気に観たけれど、毎回リアルタイムで謎を追い、回が進むにつれサスペンス度が増して犯人捜しが佳境に入っていたことを思えば、武智がこういう存在(立ち位置)だったということはあまり気にならなかったのかもしれないし、彼が本当の意味でのラスボスではない、と考えると、それも致し方ないことなのかもしれない、とも思えますが。

何だかんだ言っても、終盤の柊と武智の一騎打ちは見ごたえがあったし(野太い声で恫喝←いのうえひでのりさんの演技指導(@鋼鉄番長)のたまもの?)、 五十嵐から平手打ちをくらうところなど、武智の表情の絶妙さに いつもながらの田辺色を味わわせてもらったし、武智がネットの誹謗中傷によって文香や景山と同じように精神的に追い詰められて行く、自分のやったことがどれほど二人を苦しめたのか それを身をもって追体験させられる、そのことが、このドラマにとって重要な意味があった、と考えると、こういう役が田辺誠一にあてがわれた、ということは、光栄なことと言えるのかもしれないし。(以上、田辺ファンとしての戯言(たわごと)ご容赦)

さらに、そんな武智にも救いの手が差し伸べられる、というところが、観ている側としても救いになっていたように思います。「私たちはあなたの味方です」という校長先生の言葉に頷く同僚の先生方の優しさにもホロリとさせられました。

「生徒を商品としてしか見ていない!」と柊に糾弾されていた武智ですが、観ていてふと『金八先生』の「腐ったみかん」のエピソードを思い出しました。
タイプは違うけれど、柊にも金八みたいな「熱」があって、生徒に全身全霊でぶつかり、彼らを全力で守ろうとしているのは同じ。

その「熱」が、最後に、ネットの向こう側にいる人間たちに向かって放たれる。 ここから数分間の柊一颯=菅田将暉の「独白」の鬼気迫るほどの激しさ、強さ、凄さ! 画面に向かって吠える柊の血を吐くような叫びに、胸が熱く‥というより、胸が痛くなりました。
「キモイ、ウザイ、死ね、そんなおまえらの自覚のない悪意が景山を殺したんだよ! おまえらネットの何千何万という悪意にまみれたナイフで、何度も何度も刺されて、景山澪奈の心は殺されたんだ!」
柊の魂の叫びは、ドラマ上のSNS「Mind Voice(マインドボイス)」の人間たちだけでない、テレビのこちら側のリアルな生活の中で、「身勝手な正義感」や「無自覚な悪意」でPCやスマホの画面の上に言いたい放題書き散らかしていたかもしれない、このドラマを観ていた人間=視聴者の両頬をも思いっきり叩いたような気がしたし、その痛みが、ちゃんと伝わった、と信じたいし、もちろん私自身も引っ叩かれたんだ、と肝に銘じなければならない。
そう思わせる 力強くて純粋でまっすぐな何かが、間違いなく、菅田くんや生徒たちを演じた彼らから放たれた、それをちゃんと受け取ろう、それが、これだけ「真剣」に演じてくれた彼らに対する、観る側としての せめてもの「応え」なんじゃないか、という気がしました。


特筆すべき、ドラマ全編に漂っていた「特撮ヒーローもの」の空気感。
これだけストレートに伝えたいことがうまく伝わったのは、もちろん菅田くんを始めとする出演者の熱意・熱演もありますが、この空気感をうまく使っていたから、のような気もします。柊の計画に特撮ヒーローの制作会社が絡む、というアイデアが素晴らしく、学校爆破を始めとするとんでもない出来事を「それもあり」だと思わせる、その力技で、すべて納得させられてしまう形になったことが、このドラマが成功した大きな要因になっていたように思います。そのあたりは、脚本(武藤将吾)のうまさでもあり、演出他スタッフの思い切りの良さでもありますね。
以前、ある映画の感想の中で、「インチキがシリアスを凌駕する、 あるいは、シリアスがインチキと同じところまで墜ちる、という、そんなことが起き得るかもしれない、それを見せたい、という思惑は、 (映画の制作側に)ひょっとしたらあったかもしれない」と書いたことがあるのですが、このドラマを観ていて、ふとそれを思い出しました。
全体を覆うファンタジーのような空気感の中で、サスペンスフルな展開もインチキ臭くならず、一番伝えたかっただろうことがリアルにダイレクトに伝わった、まるで奇跡のようなドラマ。
 
出来るんだなぁ、こんなことが、まだ、テレビドラマにも!


「Let's think(レッツシンク)…考えよう、立ち止まって、想像力を目いっぱい働かせて。」



『3年A組 ~今から、皆さんは人質です』    
放送:2019年1月6日 - 毎週日曜 22:30 全10回 日本テレビ
脚本:武藤将吾 演出:小室直子 鈴木勇馬 水野格
音楽:松本晃彦 エンディング:ザ・クロマニヨンズ「生きる」
チーフプロデューサー: 西憲彦 プロデューサー :福井雄太、松本明子(AXON)
協力プロデューサー:難波利昭(AXON) アクションコーディネーター:柴原孝典
制作協力 - AXON 製作著作 - 日本テレビ
出演:菅田将暉 永野芽郁 片寄涼太 川栄李奈 上白石萌歌 
萩原利久 今田美桜 福原遥 神尾楓珠 鈴木仁 望月歩 堀田真由 富田望生 佐久本宝 
古川毅 若林時英 森七菜 秋田汐梨 今井悠貴 箭内夢菜 新條由芽 日比美思
細田善彦 堀田茜 バッファロー吾郎A 神尾佑 土村芳
ベンガル 矢島健一 大友康平 田辺誠一 椎名桔平 他
公式サイト

今さら『捜査会議はリビングで!』感想

昨年(2018)7月、毎週日曜22:00からBSプレミアムで放送された全8回の連続ドラマ。今さらながらの感想です。

ドラマのキャッチコピーは「謎解き×ホームコメディ」となっていますが、毎回起こる事件も、その謎解きも、それほど難しいものではなく、むしろホームコメディの方に重きを置いていて、ミステリーのドキドキハラハラワクワクもないかわり、とげとげしたところやギスギスしたところや痛々しいところがない、根っからの悪人も出て来ないし、誰も深く傷つかない、万事おおらかで、なごやかで、 だから子供もお年寄りも安心して観ていられる、安心して笑える、最近にはめずらしくライトで楽しいホームドラマでした。

…って簡単に書いてますが、ホームコメディって案外難しいんですよね。
ドラマ自体の骨格がしっかり出来ていて、かつ、演じる側が自分の役を「ホームドラマの登場人物」としてきちんと消化していないと、その上にコメディの色合いを重ねても うまく馴染まなくて、どうしても上滑りになってしまうことが多い。
でも、このドラマは、そのあたりをうまくクリアしている。
それは、やはり第一に観月ありささんの明るいキャラクターに因るところが大きい気がします。彼女の、細かいことは気にしないで何事もドーンと受け入れてしまうようなおおらかさや軽やかさや優しさが、森川章子というキャラクターにうまく溶け込んで、魅力的でした。

「任務の内容は第三者に洩らすべからず」という刑事のオキテだったり、「我が家の平和のために出来るだけフツーの家族ですってアピールしたい」「なるべく周囲に波風立てないようにしたい」だから自分が刑事であることを秘密にしなくちゃならない、という章子(観月)の気持ちも分からなくはないけれど、だからといって、嘘をついてまで刑事であることを隠さなければならない、というのが、正直、私にはよく理解出来なかったですけどね~‥
だけど、その「秘密ゆえの縛り(しばり)」から生まれるさまざまな騒動が、このドラマの笑いの大きな部分を担っていることを思えば、あんまりそこは突っ込まずに観た方が楽しめるのかな、という気もしました。
(その他にもツッコミどころはいろいろあって、おいおい、と思うこともほんとにたくさんあったんですが、その辺を厳しく突き詰めてしまうと、特有の心地よいゆるやかさが損なわれてしまうかもしれないので、大目に見てもいいのかな~と。甘々ですがw)

一方、章子の夫の晶を演じているのは田辺誠一さん。
万事 天真爛漫で子供みたいな章子に比べ、心ならずも主夫ブログで人気者になっちゃった晶は、本業のミステリー作家では売れていなかったり、息子を警察官にさせたかった父親(高橋英樹)との距離感を未だに掴みかねていたり、と、いろんな屈折を抱えているのですが、まぁそれもさほど深刻には描かれていないせいもあって、章子との夫婦としてのコントラストがうまく出ている程度に留まっていて、とても相性が良かったように思います。
もともとコメディ志向の強い俳優さんなので、お笑いに走り過ぎちゃわないか心配な部分もなくはなかったのですが、自重してくれて良かったです。w

余談ですが、晶の子供時代を演じた大山蓮人くんがいかにも「子供時代の晶」って感じで、私のツボに入りまくりでした。

その他にも、こういうシチュエーションに圧倒的な強みを発揮する近所のお節介焼き・花田さんに鷲尾真知子さんとか、晶の編集担当者・谷の片桐仁さんとか、いかにも面倒見が良くて優しそうな花田さんの夫・小野寺昭さんとか、近所のおばさんたち(山野海・佐藤直子・山口景子)とか、めちゃくちゃ人のいいおまわりさん(松下洸平)とか、可愛くてふわ~んとしてお人形みたいな先生(トリンドル玲奈)とか、そしてドラマをきっちり締めてくれた高橋英樹さんとか、周囲のメンバーも鉄板と言ってよく、それぞれにいい味出していました。
そんな中、橋本じゅんさんがナレーションのみの参加だったのが すごーくもったい気がしてしまった。(私が彼のファンだから、なのかもしれないけどw)

おとうさんやおかあさんより余程しっかりして大人びている晶と章子の一人息子・直(庵原匠悟)と、彼をはじめとする小学4年生カルテットも良かったなぁ。
こちらも定番の、リーダー格・翔(深田真弘)、食いしん坊・三平(田村継)、マドンナ・エミ(西澤愛菜)、どこか達観した感のある直も含めた子供たちそれぞれの個性がジュブナイル(少年少女)小説みたいで、むかしNHKで夕方放送されてた子供向けドラマにも通じるものがあるなぁ、と、そういうドラマに夢中になっていた私としては、何だか嬉しかった。
子供たちの家出の顛末を描いた第5回(僕らの家出大作戦)など、じんわり温まる内容で、良かったです。

全体に、「サザエさん」とか「ドラえもん」とかホームドラマ系アニメに近い風合いと言ったらいいか。
人を憎んだり恨んだりさげすんだり、といった悪意が一切感じられない、善意だけで出来ているようなこういうドラマは本当に貴重なので、出来れば子供も観られる夕方とかに再放送して欲しい・・と思ったら、ちゃんと日曜の夕方に再放送されてたのね。よかった。

来年2月、PART2が放送されるとか。
タイトルに「おかわり」を付けて『捜査会議はリビングで おかわり!』にした、その笑いのセンス グッジョブ!w
放送を楽しみにしています。


『捜査会議はリビングで!』    
放送:2018年7月15日-毎週日曜22:00- 全8話 NHKBSプレミアム
脚本:武井彩 秋山竜平 横幕智裕 演出:河野圭太 都築淳一 木下高男
音楽:兼松衆 制作統括:出水有三 製作:NHK 共同テレビジョン
出演:観月ありさ 田辺誠一 片桐仁 トリンドル玲奈 松下洸平
遠藤雄弥 庵原匠悟 山野海 堀部圭亮 鷲尾真知子 小野寺昭 高橋英樹 他
ナレーター:橋本じゅん
公式サイト

今さら『刑事7人』(シーズン4)感想

今年「シーズン5」が放送されましたが、こちらは昨年(2018年)7月毎週水曜21:00からTV朝日系で放送された「シーズン4」の 今さらながらの感想となります。

シリーズ4作目ということですが、私はこのドラマの「シーズン3」以前をほとんど観ていなくて、片桐(吉田鋼太郎)や天樹(東山紀之)たちの警視庁におけるポジションがどんなものかよく把握出来ていなかったので、刑事資料係とか、専従捜査班とか、兼務とかの意味がよく呑み込めない上、新メンバーの海老沢(田辺誠一)って人望薄いの?え~そうなの?と いちいち戸惑ってしまいましたが、続けて観ている人には、テンポ良く過去まとめと新メンバー紹介が出来ていた、という感じだったかもしれません。

そもそも、なんで天樹や片桐や野々村(白洲迅)は制服なの?と思ったのですが、3人は事務方(資料係)なので「警官」、水田(倉科カナ)や青山(塚本高史)や海老沢は捜査を担当するので「刑事」、ということなんですね。『撃てない警官』で勉強したのを思い出しました。w

画面から伝わって来る空気感というのは、さすが定評のあるTV朝日の刑事ドラマ枠、一定の重みや厚みがあって、見ごたえがありました。
過去の事件現場に天樹が立つ、ストップモーションの中での天樹の検証、そこから現在に戻る、という構成が面白く、事件に対する天樹たちの客観的な立ち位置が、かえって過去の事件に対する臨場感を強くしていたような気がしますし、事件そのものも、どこか昭和の香りがするようなノスタルジックなところがあって、それもまた興味深かったです。

ただ、膨大な犯罪資料に埋もれる日々を送るうち、天樹自身が「人間犯罪ビッグデータ」になった、という突拍子もない、だけどとても興味深い設定が、(9話あたりで、そのこと自体が捜査を複雑にした、という面白い使われ方が されていたにせよ)まだ十分には使いこなせていなかったように思われました。
そのあたりは、今後シーズンを重ねて行くうちに練られて来るのではないか、とも思いますが。

メンバーは、シーズン3までの天樹・片桐・水田・青山・堂本(北大路欣也)に新メンバーの海老沢・野々村で7人。
海老沢と野々村。最初から浮いてるキャラ設定だった野々村役の白洲くんはともかく、田辺さんは、最初、少し違和感というか馴染めていない感じがありました。
もともと出来上がった世界観に馴染むのに時間が掛かりがちの俳優さんではあるし、大人の事情(たぶん別件でイタリアあたりに行ってたと思われ)で1・2・8・9・10話しか出ない、というハンデがあったので、仕方なかったかなとは思いますが、そこはちょっと残念でした。
例えば3話、野々村メインの回では片桐も海老沢も不在でしたが、特段寂しい感じはなく、それなりにちゃんとした空気が出来上がっていたので、海老沢(田辺)押しの私としては、ちょっと寂しかったです。

その点、9・10話は7人全員が揃い、それぞれの立ち位置も明確になって来たせいか、捜査自体にも厚みが出て来て面白かった。

ただ、最近、『ストロベリーナイト・サーガ』とか『サギデカ』とか、捜査にかかわる刑事たちが皆、それぞれの事件への対峙の仕方は違っても、刑事という職業に誇りを持ち、事件に真面目に真摯に向かって行く、というようなドラマを観て非常に魅力を感じていたので、10話、事件の当事者が警察関係者だった、という展開は(最近そういう刑事ドラマが多いように感じていたこともあり)、個人的には、またか、もったいない、という思いが湧いたのも確かではありましたが。

海老沢は少し時代遅れの熱い刑事、という感じ。
今迄いろんな役を幅広く演じて来た中でも、およそ田辺さんらしくない 「荒っぽい熱」みたいなものが興味深かったです。
ただ、他のメンバーとの色味の違い、という面白さはあるものの、正直、捜査班内の海老沢の存在感(存在意味も含め)がまだ弱いような気がしました。そのあたりは、出演回数が少なかったせいもあったと思いますが。
海老沢に、どんな裏設定があるのか、今後それがどんなふうにドラマに反映され、田辺さんがそれをどう演じてくれるのか、まだ始まったばかりなので、次のシーズンを楽しみにしたいと思います。

それにしても…
田辺さんもついにTV朝日の連続刑事ドラマ枠にレギュラー入り。
となると、同枠の『相棒』で演じた田臥准慈検察官は もう出ないってことなのでしょうか。100%の女(和久井映見)は右京さん(水谷豊)たちと和解したようだし、再登場のきっかけがないかも… 何だか そうなっちゃったらすごく寂しいんだけどなぁ。


『刑事7人』(シーズン4)    
放送:2018年7月11日-毎週水曜 全10話 TV朝日系
脚本:寺田敏雄 徳永友一 吉本昌弘 香坂隆史 吉原れい 徳永富彦  音楽:吉川清之
監督:及川拓郎 星野和成 安養寺工 兼崎涼介
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子 ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子
プロデューサー:井元隆佑(東映) 制作:テレビ朝日東映
出演:東山紀之 倉科カナ 塚本高史 田辺誠一 白洲迅
吉田鋼太郎 北大路欣也 他
公式サイト