『ジーン・ワルツ』の俳優たち

ジーン・ワルツ』の俳優たち
映画の内容については、
前回、かなりシビアに(そしてかなり妄想をこめて)
感じたことを書かせていただいたので、
今回は、映画に出ていた俳優陣についての印象などを簡単に。


一言でいうと、
これは、かなりいいメンバーを揃えたな、という感じ。
妊婦を演じた4人の女優さんたちがすごく魅力的でした。


一番印象にのこったのが、白石美帆さん。
こんなに細やかな情感の出せる女優さんだったんだぁ!と、びっくり。


桐谷美玲さんの演技は、初めて観たんですが、
出産シーンが圧巻で、
まだ若いのに、何だか実力派の片鱗が見えたような気がしました。


お正月の『相棒SP』で強烈な印象を残した南果歩さん、
今回も、少ない出ながら、役の奥からにじんで来るものがあり、
すっかり私の中の「気になる女優さん」の一人にw。


風吹ジュンさんは、娘を想いやる母親の優しさを
温かく、揺るぎなく演じて、磐石。


そして、浅丘ルリ子さん。
こういう役で出てくるのはズルイよなぁ・・いや、いい意味で。


映画の内容が出産が絡んでいるものだけに、
女優陣ばかりがクローズアップされがちなんですが、
実は、男性陣も実に良いのですよね。


妻の妊娠を素直に喜ぶ夫を、
ちょっと大袈裟なくらいユーモラスに演じた大杉漣さん。
途中ちょこちょこ挟まれる田辺誠一さんとのやりとりがまた絶妙で、
何度ニヤニヤ笑いをしたか分からない。


白石さんの夫役の音尾琢真さんも、
1シーンだけで、きちんと夫婦の間に流れる空気感を作り出していて、
すごいなぁ!と。


大森南朋さん、
なんというもったいない使い方をしてくれるんだ〜!
ほとんど為所(しどころ)がないですが、
田辺・菅野さんと対面したシーンの表情はすごく良かったです。


田辺さんにくっついてたお医者さんが誰なのかすごく気になったんですが、
須賀貴匡さん・・だったのかな?



さて・・
主人公ふたり(とあえて言わせてもらいますが)の
菅野美穂さんと田辺誠一さんについて。


ふたりの共演は、
『恋の奇跡』『2001年のおとこ運』についで、これで三度目。
そのせいかどうか、演技以前に醸し出されるふたりの間の
空気感のようなものに余裕があって、
どんな嘘っぽい展開になっても、
とりあえずふたりだけ観ている分には安心、
というような、揺らぎや迷いのない雰囲気があったように思いました。
・・いや、私が田辺さんのファンで、菅野さんも好きだから、
そう思っただけかもしれないけどw。


(以下、そういう私の‘特殊目線’を考慮した上でお読み下さい)


曽根崎理恵が、あんなに優しく温かい母親がいながら、
なぜクールウィッチと呼ばれるような女性になってしまったのか、
そこのところは、少なくともこの映画では、
きちんとは描かれていない、と私は思うのですが、
(見落としてるところがあるかもしれませんが)
でも、原作の理恵がたぶん持っているだろうクールなイメージは、
私は、菅野さんからはどうしても感じられなくて。
あれは冷たさじゃなくて、硬さなんじゃないか、という気がして。


何と言うか、菅野さんが演じる理恵には、
いじらしいところがあるのですよね。
そのいじらしさを、人には見せまいと頑張っている、
どこか不器用で、どこか無理をしている、
柔らかい優しさや、熱い想いを、硬い殻で覆い隠そうとしている。
(その象徴が、理恵のマンションのドア前のシーン?)


そういう硬さを、清川によって少しずつ少しずつほぐされて行く・・
ゆっくりと自分の感情を瞳の奥に溶かして行く・・
そんな、大きな感情の揺れのない理恵の、繊細な心の動きを、
菅野さんは、見事に表現していたように思います。


受けて立つ田辺さんがまた、
そういう理恵に振り回され振り回され、
にもかかわらず、ずっと彼女を気にかけ続けている、
一見、自分の行動や感情を完璧にコントロール出来ているようで、
実は、そんなに器用でもなく、かっこよくもなく、クールでもない、
こと理恵に対しては、いつもの打算が働かない、
言葉とは裏腹に、どこか純愛にさえ思える、
そんな清川の気持ちを、ていねいに演じていて。


実は、清川の視線や立ち位置というのは、
この映画にとってはすごく重要だった気がするのです。
(だからこそ、さっき、主人公ふたり、
 という書き方をさせてもらったのだけれども・・)


私は原作をちゃんと読んでいるわけではないので、
正しいことを書いてるかどうか分かりませんが、
たぶん、原作の理恵と清川は、
それぞれにきちんとした自分のベースを持っていて、
その内の一部分だけが相手と繋がっている、というような、
ある意味ドライな大人の関係だったと思うのですが、
この映画のふたりには、
終始そうなりきれないところがあって、
特に終盤、言葉も、表情も、双子を取り上げた後の並んだ背中にさえ、
「好きだ」とか「愛してる」とかの直接的な言葉を超えた
情のこもったぬくもりを お互いに求め合っているんじゃないか、
という空気が感じられて、
田辺ファンで菅野さん好きな私としては、
この終盤を観るだけでも、映画館に行く価値があるような気がしました。



いやいや・・
田辺ファンで、やっと来たか!と思ってる人 多いと思うわ。
かっこいいだけでは収まらないこういう役を演じさせたら、
この人は本当にいい味を出す。
洗練された大人のスマートさとは一線を画す、
不器用で純で一途(いちず)な恋愛ものを、今後もぜひ田辺誠一に!
と願ってやみません。