『蛮幽鬼』(ゲキ×シネ)感想

蛮幽鬼』(ゲキ×シネ)感想
念願の「ゲキ×シネ」を、やっと観ることが出来ました。
蛮幽鬼』という物語自体への興味や、
上川隆也さん、堺雅人さん、稲森いずみさん、早乙女太一くん
という俳優陣への興味も大きかったんですが、
「ゲキ×シネ」という興行形態も、すごく面白そうだな、と。


まず『蛮幽鬼』について。
「岩窟王」というしっかりした下地があったせいか、
物語の芯に揺らぎがなく、
韓流ドラマ並みの畳み掛けるようなドラマチックな展開も、
底に流れる悲恋物としての味わいも魅力的で、すごく面白かったです。


主人公の上川隆也さんは、立役と二枚目どちらの要素も持っていて、
ガンガンと自分を激しくぶつけて行く役であったにもかかわらず、
ほのかな甘みも立ち昇って、
想い人の腕の中で死ぬ、という今回のような役には
うってつけだと思いました。


早乙女太一くんは、自分の持ち味を十分引き出して、
まったく不安げなく役を演じていました。
何より、舞うように殺陣をこなす、その美しさに惚れ惚れ。


稲森いずみさんは、
最初出て来た時、本当にはかなげで、
後ろで誰か支えてやらないと倒れちゃうんじゃないか、って、
なかば本気で心配したんですがw、
後半、特にラスト近くなって、ものすごい存在感を放って来て、
女王としての威厳と気品が光り輝くようで、
見惚れてしまいました。


千葉哲也さんや山本亨さんら他の客演陣にも見所があり、
特に、山内圭哉さんは、裏切り者の役なのに、
時々ものすご〜く可愛らしくて、ラブリーでしたw。


粟根まことさん、高田聖子さんら劇団員は、いつもながらの安定感。
高田さんの絶妙なセリフまわしが、台本にはなかったと知って、
ますます彼女に惚れるワタシ。


中でも、今回ツボだったのは、右近健一さん。
おちゃらけた役しか観て来なかったので、今回もそうかな、と思ったら、
軽いタッチで最後にストンと「国王の孤独」に落とされて、じんわり涙・・
いやいや、この風合いを出すのは、かなり難しいと思うんだけど、
さらりとやってるのがすごい。


そして、橋本じゅんさん。
あいかわらず自由だ、この人はw。
セリフとか動きとかに制限がまったくない感じがします。
一瞬カメラ目線になった時があって、ドキリとさせられました。
ああ、もう、こういう姿を観るにつけ、
「早く元気になって戻って来い」と思わずにはいられない。


さて、堺雅人さん。
非常に面白い(興味深い)役でしたし、
与えられたポジションとしては、惹かれるところも多かった。
しかし・・
今まで、堺さんの役作りに物足りなさを感じたことって、
まったくと言っていいほどなかった私にとって、
今回の役は、いささか迷いが見られたような気がして、
何となく、もったいないなぁ・・と思いつつ終わってしまった、
というのが、正直な気持ち。


もちろん、さすが堺雅人!と思えたところもたくさんあるんだけど、
彼なら、サジの心の奥に潜む深い闇を、
もっともっと切なく痛ましく表現することが出来たんじゃないか、
という思いが拭えなかった。


もともとすごく難しい役である上に、
どんな残忍なことをしても、終始笑顔、という、
いのうえひでのりさんによる「感情表現の封じ込め」があったので、
相当やりにくかっただろう、とは思うけれど、
(ほんと、いのうえさんはいじめっこだw)
でも、堺雅人なら、そんないのうえ包囲網を突き破って、
彼にしか表現出来ない魅力的なサジを作り上げてくれる、
と期待していたのも確かなので。
(ああもう!好きな人には突っ込まずにはいられないのが
ワタシの性格なんだよ、ごめんね)


でもまぁ、そんな苦闘する堺サジを観終わった後、
次があるとしたら、いのうえさんは、堺さんにどんな役を用意するだろう、
という興味も、私の中で、すごく大きくなったんですけどね。


     *****


「ゲキ×シネ」について。
実はこの形態にすごく興味があって、
一度観てみたい、という気持ちが強かったんですが、
今までは、上演してくれる映画館数が少ないこともあって、
地方(福島)では、なかなか観るチャンスがありませんでした。
やっと、この作品で、念願が叶いました。


正直、家でDVD観るのと、どれだけの違いがあるんだろう・・
と、ちょっと疑心暗鬼だったところもあるんですが、
いやいや、これ、まったく違います。
(映画を映画館で観るように)同じ目的で集まった人たちと一緒に、
空間を共有しつつ、迫力ある大画面で観るのと、
家で、いろんな生活音に囲まれながらDVDを観るのとは、
感動の度合いがぜんぜん違うんですよね。


もちろん、ゲキ×シネの場合は、元がお芝居なので、
実際にナマで観る楽しさと比べてしまうと、
物足りなさは確かにあるんだけど、
それでも、それを補ってくれる要素もたくさんあって。


まず、とにかく魅力的な俳優さんのアップが満載w。
実際の舞台を観に行ったとしても、これほど近づくのは無理wなので、
かなりオイシイお得感があります。
改めて観ると、俳優さんたちが、本当に細かいところまで役作り
しているのが分かって、面白さ倍増。


家で舞台中継などを観ると、
俳優さんの汗が気になることが多いんですが、
ゲキ×シネの場合は、半分お芝居を観ている感覚なせいか、
あまり気にならなかったですし。


また、映像ならではの手法も使われていて、
カット割なども、かなり計算されていたりするので、
映画感覚も味わえる、という・・


俳優の息遣いをよりリアルに、俳優のアップをより鮮明に・・
舞台の空気感と、映画の映像技術の融合・・と言えばいいか、
ようするに、舞台と映画のいいとこ取り、って感じw。


特に、休憩が入ったのは、私にとってはかなり有効でした。
休憩中にゲキ×シネ用のパンフレット(読み応えあり)を読んで、
俳優さんの役どころを確認したり、とか、
ほとんどお芝居と同じ時間の流れで進んで行くので、
本当に舞台を観に行ったような感覚を味わえて、
(実物じゃないのは残念だけど)すごく楽しかったです。


都会に住んでいる人たちは、
お芝居を観に行くことってそんなに難しいことじゃないでしょうが、
地方に住んでいると、新幹線や飛行機のチケットを取ったり、
場合によっては宿の手配をしたり、
本当に、一大決心をして行かないといけないんですよね。
だけど、この「ゲキ×シネ」がもっとメジャーになったら・・


蛮幽鬼』でやっと(上演映画館数が)45館。
これが、たとえば200館ぐらいになって、
どの地方でも、ちょっと足を伸ばせば観に行ける、
というぐらいになってくれたら、最高なんだけどなぁ!


                              11月12日福島フォーラム