『風林火山』(第28回/両雄死す)感想

『風林火山』(第28回/両雄死す)感想
板垣信方千葉真一)と甘利虎泰竜雷太)の最期――
これが前半のクライマックス、ということになるのでしょうね。
二人がどういう心情だったか、というのは、すでに前回で
しっかりと語られていたので、
今回は、実際に彼らがどういう行動を起こしたのか、
が焦点となったわけですが。


うーん・・・正直、私は、
板垣や甘利の心に自分の心を添わせて十分に酔う、
ということが出来なかったです。


甘利の行動に関しては、
もうちょっと時間をかけて、じっくり描いて欲しかった。
村上義清(永島敏行)の懐に飛び込んで、刺し違える、という、
無謀な策を甘利に取らせるというのは、
もともと相当無理があるんじゃないかと思うのですが、
それをやらせる以上は、
その「無理」をねじ伏せるだけの説得力がないと、
ただの暴挙にしか見えなくなってしまう。


板垣に関しては、ある意味、そういう物語上の立場や事情を超えて、
あの動き、あのアクションを見せたい!という、
作り手の、ストーリーを取っ払ったところでの「見せ方」にこだわった
気持ち、というのは、私は ‘ あり ’ だと思うのですが、
そこに挿まれる晴信(市川亀治郎)と勘助(内野聖陽)が、
まったく違う色合いなので、
こちらとしては、三人のどの感情にも
ストレートに飛び込んで行くことが出来ず、戸惑いが大きかった。


歌舞伎役者としての晴信も、文学座の俳優としての勘助も、
そして、アクションスターとしての板垣も、
個々に観れば、非常に大きな魅力を持っているのだけれど、
それらをいっぺんに見せられると、
その色合いの違いゆえに、消化不良を起こす。


特に、晴信の怒りの表情は、
私には、どうしても、やり過ぎとしか思えなかった。
あの歌舞伎の重厚さに対抗するためには、逆に、
孤軍奮闘する板垣を、もっともっと派手に戦わせる必要があったし、
甘利が村上に剣をふるう場面も、もっと劇的でなければならなかった、
という気がしました。


「総攻め」ということで、
主だった家臣が皆、馬上で戦う、というカットがあったのですが、
これも、もうちょっと工夫が欲しかったところです。
家臣たちが、部下を従えて馬を走らせ、戦いに飛び込んで行き、
実際に戦う姿を、周囲の状況も交えて、
1カットずつでいいから入れて欲しかった、
もっともっと、人馬ともに入り乱れる「激しい動き」が欲しかった、
合戦を描くには、あまりにも兵の数が少な過ぎた、
そのために、せっかくの数少ない戦いのシーンが、薄っぺらなものに
なってしまった・・と、非常に残念でした。


もちろん、予算の問題、出演者のスケジュールの問題、
撮影場所の問題、等々、
いろいろな事情があるのは分かるのですが、
人馬と人馬とが実際にぶつかり合うことで生まれる
「合戦活劇」の面白さは、
他の時代劇ではほとんど味わうことの出来ないものなので、
ぜひ「大河」でやっていただきたかった。
――この辺は、川中島に期待したいところです。


ただ、そういう‘ 私個人’ の物足りなさ、違和感、とは別のところで、
武田の重鎮を演じた二人の退場、というのは、
やはり、感無量のものがありましたね。
千葉真一竜雷太、という俳優の、
役に賭ける真摯な想いや的確な表現力というものが、
それぞれの役に重なって見えて、胸が熱くなりました。
彼らの残したものが、間違いなく確実に、
内野聖陽や、市川亀治郎佐々木蔵之介田辺誠一高橋和也
嘉島典俊高橋一生、といった中堅・若手メンバーに
しっかりと引き継がれて行くのだろう、と思えたことが嬉しかったです。


さて、今週の小山田信有(田辺誠一)。
先週、美瑠姫(真木よう子)とのシーンに唐突に差し挟まれた
彼の「懐の深い優しさ」に違和感を覚えた私ですが、
(いや、小山田がそういう部分を持っていたことは、
嬉しくもあったんですが。笑)
今回の合戦での、どこまでも他の家臣たちと一線を画している感じ、
というのは、いかにも小山田らしくて ますます好きになりました。(笑)

ただ・・・剣の扱いにはまだまだ慣れていない様子。
もうちょっと重々しさが出ると、見栄えがするのですが・・・
(いつもここで引っ掛かるのよね〜)


それと、今回は実際に馬に乗っていたのかどうか定かでないのですが、
騎乗の訓練は、今後、時代劇にも多く出演されるのであれば、
欠かせないと思います。
この機会に克服して欲しかったところですが、
小山田としては、もう合戦に出るシーンはないと思われるので、
乗りこなすところまで行かないで終わってしまいそうなのが
とても残念です。