『ハチミツとクローバー』(映画)感想

ハチミツとクローバー』(映画)感想
少女マンガに流れる独特の「空気」を、実写として画面に写し撮るのは、
とても難しいことなんでしょうね。
過去、さまざまな少女マンガが実写化されたけれど、
この「少女マンガの空気感」をうまく醸し出せたものは、
ほとんどなかった、と言っても過言ではない気がします。
(もうひとつ、少女マンガに欠かせない「切なさ」も、
ドラマになると、うまく表現出来ていないことが多いのですが、
その話は後ほど)


―――で『ハチミツとクローバー』。
私は、原作のマンガを知らないので、
原作のハチクロの空気感を、
この映画がきちんと写し撮っていたかどうかは知らないけれど、
少なくとも、「少女マンガ独特の空気」という点において、
とても綺麗に画面に写し撮ることが出来ていたことに、
正直ちょっとびっくりしました。
それは、たとえば映画『NANA』などでも感じたことで、
往年の(笑)少女マンガファンとしては、
邦画(とあえて言い切ってしまいますが)を作る人たちの感性に、
素直に敬意を表したい気持ちになりました。
(TVドラマは、残念ながら、まだそこまで行ってないように思われます)


これは、第一に、監督の感性、というところが大きいのだろうけれど、
撮影・衣装・大道具・小道具等々の、スタッフの力や、
実際にそういうものを着たり、持ったり、
背景に背負ったりしながら動くキャストの力も、
非常に大きいものだったのだろうと思います。


キャストの中では、特に、蒼井優さんのはぐみが、
ずば抜けて「少女マンガ」の空気を美しくまとっていたように
思われました。
(はたしてそれが、原作のはぐみの空気感に近いものであったかどうか、
は知らないけれど)
この人が放つ、独特の汚れなく澄んだ空気を、
見事にすくい上げたカメラの力もまた素晴らしかった。


カメラといえば、人にフォーカスをあてた時に微妙にブレる時があって、
それがまた、その人を見ている人間の視線に添っているようで、
興味深かったです。

美大のキャンパス、おんぼろアパート、町並み、土手・・・
それらひとつひとつがフレームに魅力的に収まって、
そこで息をする彼らを、
無理なく「少女マンガ」という夢世界の住人にしているような。


はぐみの他にも、森田(伊勢谷友介)、山田(関めぐみ)など、
少女マンガの空気に似合う面々がそろっていましたが、
竹本(櫻井翔)に関しては、正直、観始めた時に違和感があって、
この役はむしろ二宮和也くんあたりの任なのではないだろうか、などと、
非常に失礼なことを思ったのですが、
観続けているうちに、どんどん違和感が薄れ、引き込まれて行きました。
竹本は、たぶん、この映画の中で、もっとも難しい役なのかもしれない。
それを、自然に無理なく自分のものにして行った櫻井くんに、
敬意を表したいと思います。


ルイジ(堀部圭亮)マリオ(宮崎吐夢)兄弟や、アニメの猫など、
極端に「漫画・戯画」に走ったところも、上手く「引き」で撮影していて、
少なくとも私には、ほとんど違和感はありませんでした。

そんな中で、
真山(加瀬亮)が、現実の世界を一番背負っていたように思われました。
少女マンガという「夢」と、実写という「現実」の、
橋渡し的役割を担っていた、と言えばいいか。


他に特筆すべきは、彼らの良き理解者として登場する花本(堺雅人)。
堺雅人という人が持つ魅力と上手さを、
改めて再認識させられた気がします。
この人と、理花(西田尚美)と原田(田辺誠一)の関係が
どんなものであったのか、非常に興味をそそられました。


―――しかし。(ここから辛口になります。ご容赦)

これだけ丁寧に美しく少女マンガナイズされていた画面に比して、
ストーリーが少女マンガに徹していたかというと、
残念ながら、物足りなさを感じずにはいられませんでした。
この手の物語に不可欠な、甘酸っぱい切なさが、
主要5人の、どの役にも不足していたような気がしてなりません。

生半可に好きになっても、想いは伝わらない。
心が痛くなるほどすごくすごく好きになって、ようやく想いが伝わって‥
けれども、相手が自分の想いを受け取ってくれるとは限らない。
恋なんて、切なくて苦しくてつらいことばかり。
だけど、それでも、恋せずにいられない――
この、少女マンガ普遍のテーマ、と言っていい肝心な芯をまで、
画面に映し出すことが出来ていたら、
私はこの映画を、もっともっと好きになっていたに違いないのに。

少女マンガの空気・色・香りと、芯を貫く切なさ。
その両方を画面に写し撮ることは、なんて難しいことなんでしょうか。


さて―――
1シーン、しかも写真だけの出演となった田辺誠一さん。
いや〜、絵の具のついたトレーナーとか、髪とか、カメラ目線の表情とか、
勝手にいろんなことを読み取って、
とにかくもう 妄想がふくらむふくらむ。(笑)
彼は、森田やはぐみのように、
神に愛された限られた芸術家のひとりだったんだろうか、
それとも、そこに向かってむなしい努力を繰り返す愛すべき凡人
だったんだろうか、・・なんて、
いつものように勝手にストーリーを作ってしまいそうな勢い。(笑)

ああ!あの美大の空間に、あるいは花本の古びた自宅に、
原田を立たせてみたかったなぁ!
堺さんともども、30代でこれほど少女マンガの似合う人が、
ただ写真だけの出演なんて、もったいないだろ、いくらなんでも!!


そんなことを考えるにつけ、この3人のほうが、
若い5人より、ずっと的確に、
少女マンガ的切なさを表現出来るんじゃないか、なんて思ってしまうのは、
田辺フリーク(しかも堺さんも好きだったり。笑)ゆえのことか。

エンドタイトルの、
たばこを手に2人と何か話してる原田の写真も素敵でしたわ。(笑)