今さら『雪の華』(映画)感想

2019年2月より映画公開。今さらながらの感想です。

これは少女マンガです。‥と 自信を持って言い切ってしまいますがw。
中島美嘉さんのヒット曲『雪の華』をモチーフにしたオリジナル作品ですが、私には、「意図的に 映画で‘少女マンガ’を描こうとしている」 と思われてなりませんでした。

最初、美雪(中条あやみ)の「一生分の悲劇背負ってます」的な台詞が どうしても心に響いて来なくて、さらに100万円払って悠輔(登坂広臣)と恋人契約 なんていう話になって、うわ~無理無理、これは最後まで観るの辛いかも‥と思ったのですが、観続けるにつれ、美雪がどんどん可愛く感じられて、その可愛さに引きずられてラストまで行くうちに、「要するにこれは‘少女マンガ’なんだ」と感じるようになり、この世界観を受け入れることが出来るようになったような気がします。

正直、数々の深いテーマを手掛けて来た岡田惠和さんの脚本なのに‥という物足りなさもあったには違いないのですが、ほのぼのとしてひたすら優しい「これぞ少女マンガ」といった空気を確信犯的に作った中に、ただカワイイだけでない、どこか捻(ひね)ったところが所々に差し挿(はさ)められていて、そこが興味深いと思いました。

主人公が病気になって余命が告げられて‥という映画なら、きっとこんな展開なんだろうな、という こちらの予想を少しずつ覆(くつがえ)して行く‥実写の人間の生々しさを出来るだけ拭(ぬぐ)い取りつつ、マンガの良い意味での嘘っぽさ(自由な‘作りごと‘の魅力)をあえて踏襲する、そうすることで、安易にお涙頂戴にしない、悲劇に浸り過ぎない、だから、どこかさっぱりしていて、一種のさわやかさみたいなものも伝わって来る‥

もちろん、本当に病気になったら、本人も周囲もこんな余裕ある気の持ち方なんて出来ないのがあたりまえだし、映像化するなら そこもちゃんと描かないと、と言う人もいるかもしれない。
けれど、この映画は、そんな「病気がもたらす切なさ・辛さ・苦しさ・痛々しさ」をバッサリ斬り捨てて、「余命を宣告された病弱な少女」(‘少女’でなく‘女性’と書くべきかもしれませんが、あえて)を軽々と飛翔させる。
詳しい病名をあえて出さず、病気であることの切実さを回避しようとする、だから現実味がないし、しょせんキレイ事でしかない、だけど、もしこの映画が「少女マンガ」なんだとしたら、余命を告げられた少女をそんなふうに描くことも許されるのかもしれない、と。
それがいいか悪いかは、観た人それぞれの感じ方でいいと思いますが、私は、闘病映画に間々ある「泣ける!」と連呼される作品の、「悲しいでしょう、切ないでしょう、さぁ泣いて下さい」みたいな、泣かせることが第一義になってしまっているような姿勢に乗り切れない人間なので、病気と闘わず共存しようとする美雪の言動を(マンガテイストなので少々こそばゆく感じながらも)最後には認めていました。

それと、実はとても大切な事だと思うのですが、実際に 美雪本人や母親(高岡早紀)が「少女マンガ」というキーワードをたびたび口にするほど 設定自体はかなり無理矢理ではあっても、出逢って付き合い始めた美雪と悠輔の感情の流れとしては、不思議なほど不自然さを感じさせなかった(少なくとも私には感じられなかった)。
それは第一に、美雪の、見た目に似合わぬ 良い意味での しぶとさ、したたかさ、強さ、に因(よ)るような気がします。
誰かの支えがなければ生きて行けない‥といった弱さや甘えがなく、主体的で、すべてを受け容れた上に楽しんでしまおうとするゆとりがある。
悠輔に「こんなふうに ままごと してればいいわけ? 恋愛ってそういうもんじゃないだろ」と言われ、「契約成立したんだからいいじゃないですか、需要と供給が一致して」と言い返したり、悠輔の家に遊びに行って、妹(箭内夢菜)の険悪な空気に、「初美さん、もしかして嫉妬してます? ひとに嫉妬されるの人生初めてなんです、ありがとうございます!」とか、入院直前にフィンランドに行ったことを心配しつつ怒る母親に対して、「お母さんにはあんまり怒られなかったから ちょっと嬉しいかも」とか、矛先(ほこさき)をかわす一言が絶妙で、こちらも思わず笑顔。
そういう駆け引きが無理なく自然と出て来る。病気だけど頑張ってる‥んじゃなくて、心の持ち方が前向きなんだろう、と。
対する悠輔も、美雪の自由過ぎる行動に振り回されつつも、それを自然と受け容れて彼女の隣にいる、義務感から仕方なく、嫌々ながら、ということじゃなく、彼自身の素直な柔軟性と優しさによって。
観進めるうちに、そういう二人の姿が微笑ましく思えるようになったし、本当に「映画で少女マンガを読んでいる」ような不思議な気持ちにさせられました。

さらに、これも大事なことだと思うのですが、お店とかホテルとか、画面上に繰り広げられる光景がどの場面もとても素敵で、一種の「統一した香り」のようなものが感じられ、そこは実写として伝わるものがマンガより遥かに雄弁だった(きっとこの空間をマンガで描くのは至難の業だろう)ということもあり、こういう映画の作り方・伝え方もあるんだなぁ、と興味深く感じました。


中条あやみさん。
もうほんとに、この人の透明感というのは、とっても素敵です。以前にも書きましたが、現代的というよりはちょっと古風で、そのレトロ感が魅力にもなっている人。
観ていて、『ハチミツとクローバー』(映画)の蒼井優さんが思い浮かんだのですが、この映画のおかげで、(少女マンガが原作ではなかったのに)中条さんも少女マンガの透明でやわらかな空気感を表現出来る女優さんなんだなぁ、と感じられて、嬉しくなりました。

登坂広臣さん。
登坂さんというと、やはり三代目JSBのかっこいいイメージが私の中では強かったので、少女マンガテイストの登場人物ではあっても、華やかさや美しさをあまり活かすことが出来ない普通の青年である悠輔という役が、登坂さんにそぐわないのではないか、とちょっと思ったりしたのですが、美雪の言うこと為すことすべてを受け止め 受け容れる素直さだけでなく、無骨で朴訥としたところもあり、繊細さもあり、美雪の病気に流されないブレない強さもしっかりある、というところが出ていて、適役だったと思います。

高岡早紀さん。
出番は少ないのですが、こういう役で出てくれるというのが嬉しい。なぜ美雪と離れて暮らしているのか、どういう仕事をしているのか、なんの説明もないのだけれど、観ているだけで きっと仕事バリバリこなしてるんだろうな、と思える。美雪との距離感もべたべたしてなくていい感じでした。

田辺誠一さん。
美雪の主治医。すごくフレンドリーで、頼もしくて、その上に 美雪を心配する気持ちが眼差しからきちんと伝わって来る、こういう人が医師(せんせい)だったらいいな、と思わせる好人物。もうほんと、こういう役には抜群の安定感を発揮しますね。いい意味で男性性を感じさせない、清潔感・清涼感がある、田辺さんならでは、の、少女マンガ鉄板の役づくり。楽しかったです。


雪の華』Snow flower
公開:2019年2月1日
監督:橋本光二郎 脚本:岡田惠和 原案:中島美嘉雪の華
音楽:葉加瀬太郎 主題歌:中島美嘉雪の華
製作:渡井敏久 田口生己 製作総指揮:濱名一哉
制作会社:エー・フィルムズ 製作会社:映画「雪の華」製作委員会
配給:ワーナー・ブラザース映画
出演者:登坂広臣 中条あやみ
高岡早紀 浜野謙太 箭内夢菜 田辺誠一
公式サイト