ガラスの仮面(完結編)(talk)

1999・9・30放送(テレビ朝日系) 添付・ガラスの仮面研究
★このトークは、あくまで、翔と夢の主観・私見によるものです。

 
  夢:やっと『ガラスの仮面』(完結編)に辿り着いた~。
  翔:私、当時、ホームページの立ち上げで 頭の中がウニ状態になっていて、オンエアの日も、夜、ビデオに撮ったのを1回観て、それっきりだった。 でも、かえって、頭の中真っ白な状態で 観ることが出来て、良かったと思う。
  夢:無事、ホームページもOPENして、改めて ビデオを見直して、どうだった?
  翔:1クール(3ヶ月)の連続ドラマに十分なれたのに、と思った。 ビデオを6倍速にして早回ししているのを 観ているような感じがしたので。
  夢:6倍速、かぁ・・・
  翔:たとえば、速水(田辺誠一)が 紫織(佐伯伽耶)と婚約するまでの過程とか、速水と マヤ(安達祐実)の 心の変化とか、どのエピソードも、もっと詳しく書けたのに、もったいないなぁと思う。 どうせなら、1クールかけて、ゆっくりじっくり、その辺を 描いて欲しかった、と。
  夢:桜小路くん(小橋賢児)なんか、いったいあなたは何なの!?という感じだったものね。
  翔:でも、2時間特番でも何でも、また映像化しようとしてくれたスタッフには、感謝したい。
★    ★    ★
  夢:2時間という 限られた時間ではあったけど、とにかく、待ちに待った『ガラスの仮面・完結編』という事で、思い入れも たっぷりあったと思うんだけど。
  翔:『ガラかめ・2』が終わった時、もう この続きは観られないかもしれない、と、なかば諦めていたんだけど、6倍速でもなんでも、また 田辺さんの「速水真澄」が観ることが出来て、うれしかった。
  ただ、すごく楽しみにしていたと同時に、少し不安があったのも事実。 原作はまだ終わっていないのに、どうやって「完結」させるのか、と。 まして2時間で。
  夢:あたしは、「紫のバラの人、死す!?」というサブタイトルが気になって、いったい速水さんは どうなってしまうんだ・・と、気が気じゃなかった。
  翔:私は、さっきも言ったけれど、頭の中真っ白な状態で観たから、新聞も、予告編も、ほとんど何の予備知識もなく。 だから、その点は、かえって良かったと思う。 ・・・ただ、実際に見始めた時、最初、なんとなく「違和感」なかった?
  夢:いわかん?
  翔:そう。こちらも、久しぶりの『ガラかめ』で、緊張して観ていた、という事もあるけど、演じている方も、イメージを取り戻すのに、ちょっと時間が かかっていたように見えた。
  でも、展開が早くて、一生懸命 観ているうちに、怒涛(どとう)のようにストーリーが進んでいったから、どんどん『ガラかめ』の世界に 引きずり込まれてしまったけれど。
  夢:ほんとに、あっと言う間に「雨の中の納屋」のシーンになってしまったよね。(笑)
  翔:ちょっと 待って、心の準備させてくれよ!って感じだったね。(笑)
  夢:どうだった? 「何を置いても、このシーンだけは入れてくれ!」って、翔もあたしも大切にしていた、原作でも大好きな場面だったけど。
  翔:やはり、あのシーンは、本当に 観たくて観たくて 心待ちにしていたから、もう、苦しくなるくらい息詰めて観ていました。
  夢:ふたりとも、素敵だったよね、原作のムードそのままの感じで。
  翔:予想していたよりも、ずっと良かった。 安達・マヤがうまいのは分かっていたけれど、田辺・真澄が、アップの連続にもめげず いい表情をしていたし、『恋の奇跡』の時のような ぶっきらぼうな言い方じゃなく、一言一言に感情がこもっていて、引き込まれました。
  夢:でも、マヤに、あんなに瞳ウルウルで迫られたら、キスぐらいしろよ速水!って、あたしは 思ってしまったんだけど。 あの時の 速水さんのためらいって、いったい何だったの?
  翔:うーん・・私にも よく分からない。まさか、「商品だったら、大切にしてくれ」などという マヤのセリフを鵜呑み(うのみ)にしたわけではない、とは思うけれど・・・あれだけ迫られても、マヤが自分を好きなんじゃないか、なんて、考えもしないというのは・・・?
  マヤの感情は、「紫のバラの人」へのものであって、「速水真澄」へのものじゃない、と信じ込んでいたから? それとも、子供の頃のトラウマから、自分は、他人(ひと)に愛されてはいけないんだ、というガードがあって、それを乗り越えられずにいた、とか?
  夢:トラウマ、関係してる?
  翔:・・・自信ない。 やはり、母親を死なせてしまった事で、マヤが どれほど自分を憎んでいるか思い知らされているから、まさか、マヤが自分に 恋愛感情を抱いている、なんて思いもしなかった、という事なのか・・・
  夢:「行かないで!」って言われて、「暖めて下さい」って言われて、それでも気づかない?
  翔:ふたりが見つめ合って、速水がキスしようとした時、彼の腕を掴んでいたマヤの手に、ちょっとだけ力が入る。それで、速水は キスするのをやめてしまう・・・ マヤの、この一瞬の緊張を、速水は、たぶん、「まだ自分を許してくれていない」と解釈したんじゃないのかな。
  夢:速水さん、消極的すぎる!
  翔:それでも、速水にしてみたら、あれだけ嫌われていたマヤに、「行かないで」と言われただけでも、幸せだったんじゃない? 「紫のバラの人」として存在する事さえ拒否されてもしかたない、それほどひどい仕打ちを、速水は、マヤにしてしまったと思っているから。
  夢:・・・切ないよね、速水さん・・・・
  翔:切ないね。だけど、マヤをどれほど大切にしているか、本当によく分かる。 自分の感情を無理に相手に押し付けない。 マヤを、やわらかい羽根でやさしく包んであげている、という感じがする。
  夢:速水さん、我慢しすぎてるよね。 マヤにキスさえしないまま、「俺の恋は、ここで終わりだ」って、梅の谷を去って行くなんて、あまりにも報(むく)われないじゃない?
  しかも、帰ったら、さっさと紫織サマと婚約しちゃうし、会いに来たマヤに、「何か用かな、おちびちゃん」なんて、すっとぼけた事言ってるし・・・ マヤが、どれだけの想いを抱いてあんたに会いに行ったか、いいかげん気づけよ速水!って、イライラしながら観てた。(笑)
  翔:(笑)そうだよね。・・・さっきも話したけど、結局、速水は、マヤが自分を好きになるなんて、絶対にありえないと思い込んでいるんだよね。 マヤの母親を死なせてしまった、という自責の念が、何重にも、速水をがんじがらめにしてしまっている・・・
  だから、今までと同じように、「紫のバラの人」として、彼女を支えてあげる事が出来る、それをマヤが認めてくれた、というか、許してくれた、そのことだけで、自分には十分だ、と思った。
  それでも、自分が「紫のバラの人」だと打ち明けたら、マヤに拒否されるのじゃないか、と、不安を抱えてた日々から比べたら、ずっと幸せで・・・・
  夢:・・・・・・・・
  翔:「行かないで!」も「暖めて下さい」も、それは、速水に対して、というより、「紫のバラの人」に対して言ったのだ、と、そして、速水自身に対しては、マヤは、決して許してくれたわけではないのだと・・・
  だから、自分は、「紫のバラの人」としてマヤの前に存在すればいい、自分の気持ちさえ封印してしまえば、すべてうまく行くじゃないか、自分の心の中に育ちつつあるマヤへのやわらかな感情を、自分ひとりの胸に仕舞い込んでしまえば、これ以上マヤを傷つかせることも、自分が傷つくこともない・・そんなふうに、強引に思い込もうとした・・・ということなのかな。
  夢:うーん・・・
  翔:速水にしてみたら、ひとりの男性としてマヤの前に立つことは、永遠に許されない、それだけは、どんなことがあってもありえない、と信じ込んでいるわけだから、「俺の恋は、ここで終わりだ」と思っても仕方ない、ということなんだろうね。
  夢:はぁ~・・・・・切ない・・・・・
★    ★    ★  
  夢:速水さんがようやくマヤにキス出来るのは、川をはさんで出会ったふたりが、まぼろしの中で、駆け寄って、抱き合って、という場面で、だったんだけど、「あのシーンは、すごく意味が深い」と、翔は言っていたよね。
  翔:TVでは、初めてのキスシーン、という スタンスで、わりとソフトな作りになっていたけれど、原作では、完全に「結ばれた」という感じだった・・もちろん、幻想シーンで、ではあるんだけど。
  そのシーンを見た時、もう、ふたりは、肉体的に結ばれる事はないな、と・・・ これから先、このマンガが どう展開して行ったとしても、ふたりは、精神的な繋がりだけで生きて行く事になるんじゃないか、という気がしたから。
  夢:それって、原作では、って事よね。
  翔:そうだけど、TVだって、行きつく先は、‘そこ’なんじゃないか、という気がした。
  月影(野際陽子)が、マヤに言うよね、「一番大切なのは、魂と魂が結ばれる事。たとえ、表面上の恋が実らなくても、魂が結ばれ、共に生きる。その時、初めて、自分が何のために生きてきたのかを知るのです。」って。
  そういう、「精神愛」・・・という言葉が あるのかどうか分からないけれど、「精神的な結びつきによる愛情」みたいなものが、速水とマヤの、最終的な愛の形になるんじゃないか、と・・・
  夢:それって、マヤはともかく、速水さんにとっては、すごく辛(つら)い選択だと思うんだけど。
  翔:男なら、好きな女性を抱きたいと思うのは 当然の事だし、独占したい という思いも、絶対あると思うし。 だけど、彼が愛したのは、「演劇の神様に魅入られた天才少女」で、おそらく、芝居を奪ってしまったら 生きていけないほど、芝居を愛している人間だった。
  もし、万が一、マヤが、「芝居」を取るか「速水真澄」を取るか、という 究極の選択を迫られる時が来たとしたら、たぶん、マヤは「芝居」を取るだろうし、速水は、そんなマヤの気持ちを理解して、自分から 彼女の許(もと)を去るだろう。
  それぐらい、芝居をしているマヤが好きだし、マヤから芝居を取ったら 抜け殻みたいになってしまう、という事が、速水には、良く分かっているのだと思う。
  夢:うーん・・・・
  翔:だから、「速水と紫織の婚約」というのも、ただ、大都芸能のためだけでなく、マヤが芝居を続けていくために、どうしても、そうしなければならなかった、という理由づけが欲しかった。 時間がないから 仕方なかったのかもしれないけれど、あれじゃあんまり・・・・
  夢:ほんとに、あれじゃあんまりひどい奴だよね。 いくら、速水びいきのあたしでも、「紫織サマを何だと思ってるんだ!」って、怒りたくなってしまったもの。
  翔:紫織が、自分に惚れているのをいいことに、「ハイ、婚約しましょう」「ハイ、別れましょう」じゃ、人間性を疑われても仕方ないよね。 せめて、それが、マヤを守る為だった、ぐらいの理由づけがないと、納得出来ない。
★    ★    ★  
  夢:速水さんが 婚約した事を知って、マヤが、稽古出来ないほど動揺してしまうよね。 速水さんがこっそり見に来ていて、屋台で、黒沼さん(羽場裕一)に、「あれは恋だな」って言われて、初めて、マヤの気持ちに気づくわけだけど・・・・
  翔:速水さん、遅い!(笑)
  夢:そう! 速水さん、遅い!(笑)
  翔:でも、あの場面は好きだった。 黒沼さんと速水さんの間に、「友情」みたいなものが育ちつつある、という感じがして。
  夢:友情、かぁ。
  翔:・・・いや、結局、田辺・羽場のツーショットが好き、って事なんだけどね。(笑)
  夢:屋台・田辺・羽場・・・これだけ揃えば、翔は大満足。(笑)
  ★    ★    ★
  夢:結局、マヤは黒沼さんに、速水さんは水城秘書(戸川京子)に後押しされて、「会いに行こう!」と決断し、そしてクライマックスへ、ということになるんだけど・・・
  翔:原作では、まだそこまで描かれていないから、TV独自のストーリーという事になる。 だけど、原作者の美内すずえさんの頭の中にある結末と、それほど かけ離れたものでは なかったんじゃないかと思う。
   ≪大切なのは、魂と魂が結ばれる事≫
  普通の恋人同志のように、言葉で愛を確かめ合ったり、肌と肌を触れ合ったり出来なくとも、「魂の片割れ」として、相手の魂に、自分の魂を添わせて生きていく事は出来る。 魂と魂が結び合う、生涯ただ一度の、激しく深い恋・・・・
  夢:それを表現するには、どちらかが、ああいう状態にならなきゃいけなかった、と?
  翔:いや、ああいう形ではなくとも、ね。 でも、そう考えると、速水さんの 紫織へのあまりにひどい仕打ちも、「刺されて当然」という状況を作るには、仕方なかったのか、という気もしてくる。
  夢:うーん、確かに。めちゃくちゃ弄(もてあそ)ばれた紫織サマからしたら、速水さんとマヤだけが幸せになるなんて、絶対に許せない!って思うの、当然だよね。
  翔:「‘紫のバラの人’としてじゃなく、速水さん、あなたが好きです」という マヤの告白を聴いて、微笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩み寄ろうとした時に、後ろから 紫織に刺されるんだけど、「なんてことするんだ 紫織!」とは思えなかった。 「ああ、この人もかわいそうな人だな」と、すごく同情してしまった。
  夢:でも、そのせいで、速水さんは 生死の境を さまよう羽目になったんだから、いくら紫織サマの気持ちが分かると言っても、あたしは ちょっと許せないな。
  翔:そう・・・ね。 速水さんの命が助かったから、紫織に同情出来るのであって、もし、速水さんが、あのまま死んでしまったりしたら、とてもそんな余裕はなかったかもしれない。
  夢:速水さん、刺された後、「俺を憎んでる人間は、大勢いる・・・」って言って、紫織サマを逃がしてあげるじゃない。 やっぱり、速水さん自身も、いつかこうなるんじゃないか、みたいな事を、うすうす思っていたのかな。
  翔:そうだね、「自業自得」と思ったんじゃない?自分でも・・・。 でも、「俺を憎んでる人間は、大勢いる。行け・・・行ってくれ!」という速水さんのセリフは、紫織へのやさしさや思いやりが感じられて、好きだった。
  夢:紫織サマが去った後、マヤが 速水さんに駆け寄って、抱き上げるじゃない。その時、速水さんがマヤの手を握って、「俺も君が好きだよ・・・」と言うでしょ。 速水さんもまた、「芝居をしてる君」じゃなくて、マヤ自身が好きだと、やっと告白してくれた、と、ため息が出た。
  翔:私は、その前に 速水さんが「マヤ、大丈夫だよ、俺も君が好きだよ」と言う、この「大丈夫だよ」というセリフに、速水さんのやさしさが全部出ている気がして、すごく好きになってしまった。 「心配するな」とか「安心しろ」とかじゃなくて、「大丈夫だよ・・・」と。
  「マヤ、君は前を向いて飛び立って行け。俺は必ず君のそばにいて、くじけそうになった時、そっと支えてあげよう」・・・マヤと速水さんは、お互いを見詰め合っているんじゃなくて、高いところにある何かに向かって、一緒に飛び立とうとしている、と思わせられる言葉だった。
夢:うん。
翔:「大丈夫」って、改めて辞書で調べて見たら、①強くて、あぶなげがない。②確かで、まちがいがない。という意味で、すごく、人に安心感を与える言葉だったんだ、と思って、私は、もう、この一言に、すごく惹かれてしまいました。(笑) 
  夢:あたしが、『ガラかめ・2』で、踏切のところで速水さんが言う「好きだ・・」に参っちゃったのと一緒かな、もしかして。(笑)
  翔:そうだね。 しばらくは、「大丈夫だよ・・・」というセリフが頭の中グルグルしそう、あの時の夢みたいに。(笑) 
★    ★    ★
  夢:ラスト、もう二度と目覚める事はないだろう と言われた速水さんに、マヤがキスすると、紫のバラの花びらが一枚、ハラリと速水さんの指先に落ちて、その指が かすかに動き、やがて目覚める、って、これぞまさに・・・
  翔:これぞまさに『恋の奇跡』! (笑)
  夢:そう!(笑) 良かったよね、安心した。
  翔:でも、私は、あれは、「紫のバラが見せたまぼろし」だったんじゃないか、という気もしたけど。 
  夢:え?
  翔:ものすごく残酷かもしれないけれど、ドラマとしては、あそこでは、「かすかな希望」があればいい、だから、目を覚まさなくとも、微笑まなくとも、速水の指が少し動いただけで十分だったんじゃないか・・・と、不謹慎な事を考えてしまいました、すみません。
  夢:翔、完璧に、速水ファンを敵にまわすぞ!
  翔:ごめんなさい。 でもね、簡単に目覚め微笑むことが、命の尊さを伝えていることにはならないんじゃないか、という、逆説的な考え方も、出来るようにも思うので。
  夢:うーん・・・
★    ★    ★    ★    ★    ★
  夢:という事で、一応、最初からラストまで ストーリーを追ってみましたが、田辺さんじゃないけれど、2年半追いかけ続けてきた作品なので、あたしも翔も、すごく名残惜しくて、もうちょっとおしゃべりしたいな、と。 もうちょっと、田辺さんの話をしよう。
  翔:そうだね、田辺さんの話をしましょう。
  夢:『ガラスの仮面・完結編』という事で、一応、田辺さんの「速水真澄」も今回で見納め、ということなんだけど、やっぱり、すごく寂しいよね。
  翔:特に今回は、「田辺誠一の 速水真澄」にすごく愛着がわいて、もっと観ていたい!と思ったからね。
  夢:『第1部』・『第2部』とは違った?
  翔:『第1部』も『第2部』も、それぞれの良さがあるんだけど、今回は、本当に観たかったシーンが、うまく織り込まれているなぁ、と、まず脚本に感動したし、アップシーンも多くて、表情で感情を表わすシーンがたくさんあったのだけど、田辺さん、どの場面でも、すごくいい表情をしていたのが印象的だった。
  夢:翔が気にしてた「きれいな表情」になっていた?
  翔:きれいな表情というのも もちろんなんだけど、今回、「速水真澄」の中に、朋哉(@甘い結婚)や、聖(@恋の奇跡)や、織田(@らせん)や、健二(@BLUES HARP)や、今まで田辺さんがやった役すべてが、凝縮して入っていたような気がしたから。
  夢:「集大成」という感じ?
  翔:そこまで 大げさじゃないかもしれないけれど・・・(笑) 
・・・田辺さんの魅力って、純粋で、繊細で、でも芯が一本しっかり通っていて・・うまく言えないんだけど、すごく「硬質」な感じがする。   
  夢:こうしつ?
  翔:ガラスとか、陶器みたいな・・・一見とっつきにくいんだけど、ずっと触れていると、ほんのりと温かさが伝わってくる、と言うのかな。 さわると、コンコンって音がするような、かたい殻のなかに、青い炎が静かに燃えている、というような。
  夢:うーん、あたしは、もっとヒューマンなイメージもあるけど。 でも、「硬質」・・・確かに、田辺さんは、ギラギラ・ベタベタしてなくて、サラッ・カチッとした感じ、あるものね。
  翔:たぶん、性格もそうなんじゃないか と思っていた。 まじめで、誠実で、一生懸命で、夢中になると 周りが見えなくなって、でも、そういう姿をあまり他人(ひと)に見せたがらない控えめなところがあって、爆発的な影響力はないけれど、少しずつ、少しずつ、周りに影響与えて行く、といったような。 何か困ったことがあっても、ちょっと眉根を寄せて、ため息ひとつ ついて、通り過ぎるのを静かに待つ、ような。
  夢:あー、なんとなく、それ、分かるなぁ。
  翔:でも・・・・
  夢:でも?
  翔:確かに、普段は そういう性格なのかもしれないけれど、こと「クリエイティブなもの」に関しては、ちょっと違うのかな、と、最近思い始めた。 その辺の事は、別な機会に話したいと思うけれど。
  夢:「クリエイター・田辺誠一」って、翔は、すごく好きだよね。
  翔:好き、というか、すごく興味深い。 これがあるから「田辺ファン」をやめられない、というところもある。(笑)
★    ★    ★
  夢:話を、「俳優・田辺誠一」に戻すけど。
  翔:私、前に、「田辺さんは、けして芝居のうまい人じゃない」と言ったけど、だからと言って、「俳優・田辺誠一」を否定しているんじゃない、という事を、誤解のないように付け加えさせて下さい。
  与えられた役を 完璧に演じ、観客を驚嘆させてくれる 本物の役者たち、表情・しぐさを含めた演技すべてが、きちんと完成されている人たち・・・・役者を名乗る以上、そうでなければならない、とは思う。 けれど、現実には、そうじゃない人もいる。 そして、田辺さんも、私は、まだ、その中に入ると思う。
  夢:う~ん、その一言は、波紋を呼びそうだなぁ・・・
  翔:まあ聴いて。 だけど、だからと言って、田辺さんのような人たちが、観客を感動させられないか、と言ったら、そうじゃないでしょう?
  演技が 完成されたものではなかったとしても、その俳優の持つ容姿や、雰囲気や、空気、といったものが、「役」に、ピタリと当てはまってしまう事だってある。 それもまた、俳優にとっては、大事な「資質」だし、ひょっとしたら、それこそが、一番大切なものなのかもしれない。 だって、芝居は、ある程度経験を積めば うまくなって行くけれど、そういう「資質」は、持とうと思っても、みんながみんな持てるわけではないんだから。
  夢:そうだね。これだけ田辺さんが、TVからも映画からも「引く手あまた」なのは、彼が、なにかしら観る人の心に、鮮烈な印象を残し続けているからだと思うし・・・
  翔:それから、さっき、今回の「速水真澄」は、今までやった役すべてが凝縮して入っている、と言ったけど、田辺さんを観ていると、一人の人間が、俳優として成長して行く姿を、順を追って見せて貰っている、という気がする。
  「田辺誠一」は、きっと、もっと変われる、まだまだ変化し続けて行く。 1ステップずつ高みへ昇って行く彼を見続けたい、と思う、ああだこうだ、と言いたいことを好き勝手に言いながら。(笑)
夢:好き勝手に・・・ね。(笑) 
翔:でも、それって、もしかしたら、「観客」として、「ファン」として、最高の醍醐味を味わっている、という事なのかもしれないよ。
  ★    ★    ★
  夢:なんだか、すごく幸せな気分になったところで、「私のイチ押し」だけど。
  翔:「マヤ、大丈夫だよ・・・」も、大好きなセリフなんですが、やはり、心待ちにしていた、という事で、「雨の夜の納屋」の場面、特に、速水さんのアップシーンすべて、ということにさせて下さい。
  夢:川辺のキスシーン。2年半かけて、やっとここまで来たか、という、感慨深いものがあったので。
 

今さら・今でも・今なお≪ガラスの仮面・完結編≫
■TVドラマ≪ガラスの仮面≫研究■
北島マヤの二面性と速水真澄の三面性
『完結編』を観ながらずっと考えていた、山小屋で、速水は、マヤをその腕に抱きながら、なぜキスしなかったのか・・・・
なぜ、ようやく心を通わせることが出来たのに、「俺の恋は、ここで終わりだ」と思ったのか・・・・
紫織と婚約してしまったのは、なぜなのか・・・・

***   ***

北島マヤには、《女優》と《普通の女の子》の貌(かお)がある。
同じように、速水真澄には、《大都芸能副社長》と《紫のバラの人》と《速水個人》としての貌がある。
この、マヤの二つの貌と速水の三つの貌は、場面ごとに、単独で現れたり、時には混在して現れたりして、物語に、微妙で複雑な色づけをしている。
二人の想いは、ドラマの中で、どのように揺れ、育ち、結実したのか、この、北島マヤの二面性と速水真澄の三面性という角度から、検証してみたい。

★『ガラスの仮面・1』・《大都芸能副社長》としての速水真澄の感情
速水真澄は、『1』において、《女優》としての北島マヤに惹かれ、一ファンとして、というより、もっと大きな存在(紫のバラの人)として、陰でバラを贈り続けるようになるのだが、マヤの母親を死なせてしまったという後悔や、その他もろもろの事情が、「大都芸能の副社長として、女優を育てる」以上の想いを抱かせることを許さない。
(彼の生い立ちは複雑で、素の自分を出すことに対して、かなりの警戒心を抱いている、というのも、もちろん大きな障害となっている)
それでも、ふいに、彼の内に生まれたやわらかな感情が、こぼれ落ちることがある。
別荘で、目隠ししたままのマヤに抱きつかれた時・・・・噴水に立ち尽くすマヤを心配して、自らも飛び込み、ずぶ濡れになった時・・・・マヤと桜小路の絆を見せつけられた時・・・・
だが、それでも彼は気づかない、あるいは気づくのを畏(おそ)れているのだ、天才女優・マヤを、一人の女性として愛し始めていることに。
『1』のラスト近く、速水がマヤに、自分が《紫のバラの人》だ、と告白するシーンがあるが、それを認めようとしないマヤに、速水は、自分がどれほど《女優・北島マヤ》に惹かれているかを素直に語り、マヤが再び舞台に立つ決心をさせる。
速水真澄の、マヤへの第一の告白は、だから、大変素直なものではあるが、《大都芸能副社長》としての彼が、《女優》北島マヤを救うため、以外の感情は、まだ、微(かす)かなものでしかなかった、と言える。
『1』のラスト、一本の紫のバラを通じて、ようやく心を通わせることが出来たマヤと速水は、まだ、これ以後、二人のなかに芽生え、育まれる感情の、とば口に立ったばかりでしかない、と言えるだろう。

★『ガラスの仮面・2』・女優・北島マヤの一ファンとして
『2』に、こんなシーンがある。「ふたりの王女」のアルディス役を掴んだマヤに、速水は、自分を招待しろと持ちかける。自分を感動させる芝居をしたら、腕に抱え切れないほどのバラの花を贈るが、へたな芝居をしたら、すぐにも席を立つ、と。
マヤが、その申し出を受け、立ち去ろうとする時、「バラの色は紫がいいか?」との速水の問いに、「紫のバラ以外よ。あんたなんかに紫のバラを贈って欲しくなんかないわ!」と突っぱねて、速水の許を駆け去って行くのだ。
後には、呆然と佇む速水が残されるのだが、この時、彼は、マヤの中に、《大都芸能副社長・速水》を憎む気持ちと同じぐらいの大きさで、《紫のバラの人》を慕う気持ちがはっきりと息づいているのを思い知らされることになる。
《紫のバラの人》としてあれほど慕われているのも、《大都副社長》として憎まれているのも、どちらも同じ《自分》なのだ。そして、どれほど恨まれても憎まれても、自分は、《大都副社長》として、《女優・北島マヤ》を育てて行かねばならず、一方、《紫のバラの人》としては、彼女の予想外の好意に戸惑い、結果、自分が《紫のバラの人》だと打ち明けることが、ますます困難になって行く。
紫織との結婚話が具体的になるのと平行して、速水の中の《女性・マヤ》は、どんどん大きくなって行くが、「好きだ」と言ってしまうことが、どうしても出来ない。
マヤの前では、いつでも彼は《大都芸能副社長》であり、そうであることが、彼が、マヤの傍にいることの出来る、唯一無二の条件で、他の感情を滑り込ませれば、副社長と女優という関係さえ壊れてしまう・・・・まるで、そう信じ込んでいるように。
初めてのデートの時・・・・プラネタリウムで偶然逢った時・・・・告白のチャンスがあったにもかかわらず、そうしなかった、出来なかったのは、少年のように純粋なマヤへの感情に、自分自身が戸惑い、失うことへの強烈な畏れを抱くようになったからではないだろうか?
しかし、遮断機の前で、速水はついに第二の告白をする、「きみが好きだ!」と。
この告白は、『1』における第一の告白、さらに、『完結編』の山小屋での第三の告白とは、明らかに、意味を異(こと)にする。
第一の告白は、《大都芸能副社長》として、《女優・北島マヤ》を救うためのものであり、第二の告白は、《大都副社長》という肩書きを下ろした、《速水真澄》個人の、《女優・マヤ》への、ファンとしての告白であり、そして第三の告白は、《紫のバラの人》が、《女優・マヤ》に、彼女を陰で支えて来た人間として告白したものであった。

★『ガラスの仮面・完結編』・三つの貌がひとつになる時
《速水真澄》としても《紫のバラの人》としても、《女優》であるマヤにしか告白出来ない、心の中で、どれほど《女性》としてのマヤを愛していても、それを口に出すことが怖い・・・・・
《女優》としての彼女を好きなだけならば、どんなに嫌われても、憎まれても、《大都副社長》の肩書きがある限り、彼女の傍にいることが出来る。また、《紫のバラの人》が、実は速水である、ということがバレない限り、ずっと、バラを贈り続けることが出来る。
マヤが《速水真澄》をどれほど忌み嫌っているか、彼は何度も思い知らされている。もし、心の奥に芽生えて、ゆっくりと育ちつつあるこの想いを打ち明けて、拒まれてしまったら、いくら《大都副社長》でも、《紫のバラの人》でも、もう、彼女の近くに居続けることが出来なくなってしまう。
「マヤが、自分(速水真澄)を愛するようになるなんて、絶対にあり得ないことなのだ」・・・・
山小屋での彼の告白は、だから、これもまた、片肺だけの告白であるのだが、《紫のバラの人》として彼女を見続けることを、彼女自身によって認められたことで、彼は、充分に満足し、自分自身の本当の想いを打ち明けぬまま、封印し、「紅梅の里」を去ったのだと思う。
それは、「あきらめ」とは、ちょっと違うだろう。
「マヤが、自分を愛するようになるなんて、絶対にあり得ないことなのだ」
このフレーズを何度も何度も身体内に叩き込んで来た彼にとって、《紫のバラの人》としてさえ、彼女の前に存在することを拒まれるのではないか?と、内心ビクビクしていた彼にとって、あれほど好意を寄せ、慕わしく想っていた《紫のバラの人》が、《速水真澄》だと知ってなお、変わらぬ想いを寄せてくれた・・・・それこそが、今、マヤが自分に与えてくれる最善・最高の感情だと思ったのではないか?
それだけで、彼は充分だったのだ、最初から、好きだと告白出来ない相手への片想い・・・・自分の感情を閉じ込めるのには慣れている。だからこそ彼は、平気で紫織と婚約出来たのだろう、自分さえ心に蓋をすれば、すべてうまく行く、と。まさか、マヤが、速水自身を愛し始めているなどと、ツユとも思わずに。
「歳も姿も身分もなく、出会えば互いに惹かれ合い、もう半分の自分を求めて止まぬと言う。早くひとつになりたくて、狂おしいほど、相手の魂を恋うると・・・それが『恋』じゃと・・・・・」
月影が演じた阿古夜のセリフを、速水は、どんな想いで聴いたのだろう?自分がマヤを好きなことは、もうどんなふうにもごまかすことなど出来ない。自分にとって、「もう半分の自分」は、マヤの他にない。たとえ想いが届かなくとも、心の中で愛し続けることは出来る。唯一、彼が自由に自分の感情を解き放てる場所を、彼は、自身の中に見出したのだ。
しかし・・・・
「魂のかたわれ」・マヤとのまぼろしの抱擁は、彼の心に、また、さざなみを立てる。まぼろしでありながら、はっきりとマヤの感触の残る手を見つめ、彼は、また、際限なくふくらみ続けるマヤへの想いを、必死で抑えつけなければならなくなる。
一方、マヤもまた、激しい感情に揺れていた。自分にとって、《速水真澄》とは、どういう存在なのか、
確かめずにいられず、東京に向かい、そこで目にしたものは・・・・・速水は微笑んでいた、そして、その隣りには紫織の姿があった。二人は、婚約したのだ。
突然、マヤの胸は苦しくなる。《紫のバラの人》としてではない、《速水真澄》その人を、自分はこんなにも好きになっていたのか?
紅天女』試演へ向けて、稽古が始まる。しかし、マヤは、速水への想いに捕われて、満足な練習が出来ない。心配して稽古を見に来た速水に、黒沼が言う、「あれは『恋』だな。辛い恋でもしてるんだろう」と。その時、ようやく、速水は、マヤの、自分に対する感情に気づくのだ、「喜び」よりも、大きな「戸惑い」を抱きつつ。
速水にはわからない、どうすれば彼女を救えるのか?自分の感情は、とうの昔に封印した。それを解いてしまえばいいだけなのに、彼には、まだ、呪縛が掛かっている、「マヤが、自分を愛するようになるなんて、絶対にあり得ないことなのだ」という呪縛が・・・・・
それでも、彼は、居ても立ってもいられず、マヤのところへ向かう。《大都芸能副社長》として、《紫のバラの人》として、そして《速水真澄》自身としての自分が、《女優》としてひとりの《女性》として愛して止まない、マヤの許へ。
「あなたが好きです。《紫のバラの人》としてじゃなく、速水さん、あなたが好きです」
マヤのこの告白は、《大都芸能副社長》として《女優・マヤ》を育て、《速水個人・一ファン》として《女優・マヤ》を見つめ、《紫のバラの人》として《女優・マヤ》を支えて来た速水が、初めて、それらをすべて内包したひとりの男として、マヤの前に立つことを許された瞬間だった、と言っていい。
そして、この時初めて、彼は、「マヤが、自分を愛するようになるなんて、絶対にあり得ないことなのだ」
という堅い呪縛から、ようやく解放されたことになり、彼もまた、素直に自分の想いを打ち明けることが出来たのだった、
「マヤ・・・・大丈夫だよ・・・・俺もきみが好きだよ」と。

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『1』も『2』も、そして『完結編』も、内容的には繋がっていながら、それぞれ単独のストーリー展開を見せる。だから、それぞれをバラバラに観ても、相応に面白い作品に仕上がっていると言えるかもしれない。
しかし、特に、北島マヤの二面性と速水真澄の三面性、それぞれにおける複雑な感情の混在と、その流れを思う時、これらは、紛れもなく、すべて通して初めてひとつの「物語」になっているのであり、『1』『2』『完結編』が揃って初めて、TVドラマ『ガラスの仮面』となり得るのだと、こうして振り返ってみると、改めて実感せずにはいられない。
                                  
2000年8月6日 翔